|
「この台所がマグリットの作品制作にとってとても重要な場所です。」 とガイドのおねーさんは確かにそういった。
ルネ・マグリット René Magritte, 「イメージの魔術師」と呼ばれるマグリットは、20世紀美術を代表するシュルレアリスムの画家である。
そんな巨匠が住んだ住居兼アトリエが一般公開されていると言う。あんな想像力のある絵描いた人だから、きっとすごいアトリエだと期待に胸を膨らませやってきたのだが・・・。
今、目の前にしているのは地味な狭い台所。 そしてガイドのオネエさんは話を続けた。
「マグリットの作品の多くはこの台所でかかれました。」
「はっ?」なんかの聞き間違いだと耳を研ぎ澄ます。
オネエさんは話を続けた。 「マグリットの生涯は、波乱や奇行とは無縁の平凡なものでした。ブリュッセルでは客間、寝室、食堂、台所からなる、3LDKのつつましいアパートに暮らし、幼なじみの妻と生涯連れ添い、ポメラニアン犬を飼い、待ち合わせの時間には遅れずに現われ、夜10時には就寝するという、どこまでも典型的な小市民でした。それが彼のポリシーだったのです。」
同じシュルレアリストのダリのような奇行は絶対しなかったらしい。言われてみれば残されているマグリットの写真は、常にスーツにネクタイ姿で、実際にこの服装で絵を描いていたといい、彼は専用のアトリエは持たず、この台所の片隅にイーゼルを立てて絵を描き、服を汚したり床に絵具をこぼしたりすることは決してなかったという。
ここであの傑作「光の帝国」とか描いたの・・・? アパートの内部にはマグリットの絵のモチーフになった階段や窓やが今でも残っている。 「日常的な物の中から何処まで想像力を生み出せるか?」と 台所の片隅で筆を振るマグリットがそう言って「ふわっ」 と消えた。
マグリットの家を後にした僕は子ども達が遊ぶ公園の真ん中に花開くモクレンを見上げた。おそらくマグリットも愛犬のポメラニアンをつれて同じようにこのモクレンを見上げたに違いない。そのつつましい小市民的なポリシーに親近感を感じずには居られなかった。
浜風編集チョー
|